どうしてもバスで帰る気にはなれなかったからだ
人目も避けたかった
混乱している頭の中の整理も必要だった
何より、親と顔を合わせる時間を少しでも引き延ばしたかった...
その日はとても寒い日だったが、
身体に受ける初冬の冷たい風は、傷む心を紛らすのには打ってつけだった
すれ違う人や車もはばからず、私は泣きながら歩いた
『家に着いたら母に何て言おう......』
1ヶ月前、母にも甲状腺のがんがわかったばかり
これから検査を控えている母だって
自分のことでいっぱいいっぱいのはずなのに、
そんな時に娘が乳がんだなんて知ったら...
...なんて残酷なことだろう...
家に着いた時、すでに3時を回っていた
そして運が良いことに、ちょうど来客中――
『よかった。これで少し時間が稼げる...』
私は誰にも気づかれぬよう、2階の自分の部屋にこっそりと入って行った
まず私がしなければならないことは、涙を乾かすこと
こんな顔と声じゃ、とてもじゃないけど親には会えない
お客さんはそれから1時間ほどで帰ったが、
私は結局夕飯の時間まで茶の間に下りて行くことはできなかった
夕飯を食べながら、私の気持ちは焦っていた
早く話さなければ、明日、あさってと延び延びになってしまいそうだった
でもさすがに食事中にするような話題ではない――
『いつ切り出そう...。何て話そう...』
そんな時、父が突然、「家をリフォームする」と言い出した
それを聞いた母は激怒!
「何言ってるの? もう12月になるんだよ!
こんな寒い時に家から閉め出されるの!?
それに私、これから手術しなきゃならないのに、それどころじゃないでしょ!!」
ごもっともだった
でも一度言い出したら聞かない父
「いや、前から考えてたから、今年は絶対にやる!!」
そんな父に私もキレた
そして、乳がんのことを言うなら今しかないと思った
「何も今やらなくたっていいじゃん!
私だって乳がんで、これから入院しなきゃいけないのに!!」
でもその言葉を私は口にすることができなかった...
せっかくのチャンスを、私は逃してしまったのだ

