台所で母と後片付けをしている時だった
『言うなら今しかない!!』
面と向かっては話せない
話すならガタガタしている“今”だ
今ならドサクサにまぎれて話せるいいチャンスだ!
でもやはり、簡単には言葉は出てこなかった
時間だけが無情に過ぎてゆく――
『早く話さなければ...』
その時ちょうど、母の方から話しかけてきた
「明日、私、検査だから」
明日母は私と同じく、CTやら骨シンチやらの検査を受けることになっていた
きっと母は不安でいっぱいだったのだろう
でも私はそんな母の気持ちより、自分のことで精一杯だった
が、絶好のチャンスだった
私は流れに乗じて、ようやく話を切り出した
「私も病院変わったんだ。なんか悪性だったみたい」
心の内を悟られまいと、涙は見せまいと、目一杯明るく、明るく...
「・・・え? ・・・あんた乳がんなの?」
「うん。乳がんだって。“今さら”・・・って感じだよね~」
それを聞いた母は、茶の間にいる父の所へ飛んで行った
「お父さん! りか、乳がんだって!!」
「乳がんなんて、(おっぱいを)切ってしまえばいいんだろ?」
「何言ってるの! 命にかかわる病気なんだよ!!
私、りかと一緒に入院するから、お父さん、家のこと頼むね」
会話は台所まで聞こえてきた
私はその声を打ち消すように食器を洗い始めた
でももうすでに限界だった
張っていた糸がプツンと切れ、こらえていた涙が堰を切ったようにあふれ出した
『両親の前では、絶対泣かない!!』
そう決めていたのに、母が台所へ戻ってきた時には
私は立っていることすらできずに、嗚咽とともにその場に泣き崩れた
「本当に親不孝でごめん...」
声にならない声だった
そんな私を母は優しく抱きしめてくれた
「大丈夫、大丈夫。一緒に入院しよう」
そう言った母もまた、涙で頬を濡らしていた......

