『なんだろう...。
まもなく控えている母の一周忌のことだろうか』
父と話をするのは久し振りだ
なかなか会う機会もない
いや、
“敢えて会わないようにしている”
と言った方が正しいだろうか
「元気か?」
それが父の第一声だった
これまでは、人を思い遣るような言葉は
決して口にしなかった父
母ががんになって、
転移して、
治療法もなく、
日に日に衰えていく姿を見、
「余命2ヶ月」と告げられ、
それでも尚、
1年、2年と生きられると思っていた父
“がん”という病気がどういうものなのか、
わかっていなかった父
急激に
身体が動かなくなってゆく母を目の当たりにし、
「余命1週間」と告知されて、
ようやくその現実を思い知った父
結局母は、その日亡くなった
父はそんな母を見て、
ようやく私の身体を案じてくれるようになった
きっと、
「娘もいつどうなるかわからない」
と、はじめて知ったのだろう
さすがに、私も、
「体調を崩している」とは言えず、
「元気だよ」と答える
そして、家庭菜園の、
ラディッシュとほうれん草を持ってきてくれた
今年も自宅の庭で、
母が好きだった野菜を作っているらしい
『そっか、もう植えてたんだ...』
母は亡くなる直前、庭先に腰かけ、
大きく育ってゆく野菜たちを見て喜んでいた母
母が余命を告知された頃、
「野菜はもう作らない」
そう言っていた父
亡くなる直前に、
「やっぱり植えたら?」
と、提案した
それは、野菜が好きだった母への想い
そして、
“母がいなくなっても、
少しでも父に身体を動かしてほしい”
という、娘としての思いだ
「うん。少しだけど、植えようと思ってた」
父の意外な言葉に、私は安堵した
『でも、このほうれん草、
いくらなんでも小さすぎ...』
母がいたら、きっと、
「なんでこんなに小さいのに採るの!?
もう少し大きくなってから採ればいいんでしょ!!」
と、父を一括していたに違いない――
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