「このあいだの検査の結果だけど、遅れたのには訳があって――」

それが医師の第一声だった

『“訳”・・・? だって良性なんでしょ? 良性なんだよね?』

私はその言葉を飲み込んだ

できることなら
このあとに続くであろう医師の言葉を聞かずに済ませたかった
そして
『このまま永遠に時が止まってしまえばいいのに・・・』
そう願った


「悪性だね。“乳がん”ということだね」

『え・・・? 何かの間違いだよね? 絶対間違いだよ!!
 だって先生、4年8ヶ月前に“良性腫瘍”って言ったじゃん。
 言われるままそのまま放っておいて、
 いまさら“悪性”なんて言われても、納得できる訳ないよ!!!』

しかし、私の口からその言葉が発せられることはなかった

あまりの衝撃の大きさに医師を責める気力さえ失われていた
責めたところで結果が変わる訳でもなかった...


医師は淡々と話を進めていく――

「乳がんにしては珍しい細胞だね」

『“珍しい細胞”って、それって最初に“がん”と見抜けなかった言い訳?
 それとも治療法が確立されてない・・・ってこと?』

「でもホルモン剤も効くし、進行も遅いよ」

『“ホルモン剤”・・・? 何のことやらさっぱり・・・。 “進行は遅い”・・・?
 いくら“遅い”と言われても、しこりを見つけてから5年近くも経っている。
 その何年も前からがんがあったと思うと、
 かなり進んでるのは間違いなさそうだ。
 それに“がん”って、進行が早いんだよね・・・?』

“がん”と聞いて真っ先に連想するのは抗がん剤だった
抗がん剤は体にダメージを与えることは、なんとなく知ってはいた

「抗がん剤とかするんですか」

それはこの病院に来てから私が発した初めての言葉だった

「いや、それはないよ」

今思うと、この時点で抗がん剤をするかどうかなんてわかるはずもなく...
医師の長年の勘なのか、
それともせめてもの私への気遣いだったのか・・・

そして医師は医学書のようなものを取り出し進行度を説明してくれたあと、
メモ用紙に何かを書き始めた

「(しこりを)切った周りにがんが残っているかもしれないから、
 手術ではこんな感じに切ることになるね」

それは、扇状に4分の1を切除する乳房の絵だった

“乳がん=全摘”
そんなイメージを未だに持っていたので温存できることに驚いた
『それにかなり進行してるはず。それでも温存できるのかなぁ...』

そんなことを考えながらその絵を見つめていた私の目から、
大粒の涙がこぼれ落ちた

泣きたい気持ちなんてこれっぽちもなかった
それどころか、『泣いてたまるか!!』ぐらいの思いだったのに、
言葉にできなかった医師への不満が涙となって頬を伝った

そしてそこに、冷静なもう一人の私がいた

『この先生に手術されるのはイヤだ!!
 この先生に命を預けるのはイヤだ!!』

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