「ほかの病院へ行ってもらって・・・」

医師は近くにある総合病院の名前を口にした
この病院で、この先生に手術されなくて済むと知って、
どれだけ安堵したことか・・・・・・

「あそこの病院なら形成外科もあるし、(胸を)きれいにしてもらえるよ。
 それともほかにどこか行きたい病院があるならそこでもいいし・・・」

病院なんてどこがいいかなんて全く知識もないし、
たった今、“乳がん”と言われたばかりでそんな判断力はあるはずもない
この時の私は、乳房の形よりも削られたであろう命の方が大問題だった

「その病院でいいです」

この辺りでは医師の言った病院しかないと思った

「今、手紙(紹介状)書くから、外(待合室)で待ってて」

看護師長らしき人に促されて、私は診察室から出された


待合室には相変わらずインフルエンザの予防接種に来ているビジネスマンが
途切れることなく訪れていた
私はそんな中、
一般の患者さんたちに混じって待合室の真ん中辺りの椅子に腰掛けた

その間も、私はずっと泣き続けていた
気になる周りの視線――
でも、止めようと思えば思うほど、涙はあとからあとからあふれて来る

待合室の隅にある公衆電話に目が留まった

『そうだ。今のうちに家にいる母に“乳がん”だったと言っておこう。
 これからほかの病院にも行かなくてはならない。帰りが遅くなってしまう。
 それに、面と向かっては言い出せそうにない。絶対に泣き出してしまう。
 それならまだ電話の方がマシかも・・・・・・』

でもどう切り出したらよいか......

母との会話を想像してみたけど、それだけで号泣だった
冷静になって何度も何度もシミュレートしてみたけど、
やはり泣かずに告げることは不可能だった

そんなことを考えながら、どれくらい待っただろう...
さっきの看護師長らしき人が私の名前を呼びながらこっちへやって来た
そして、「これをあちらの先生に・・・」

そう言って紹介状を差し出した

私は患者さんとビジネスマンたちの衆人環視の的
しかもずっと泣き通しの私に紹介状なんて
誰が見ても良くないことがあったのは容易く判断できる状況...

こういうデリケートなことに関しては、医療従事者として、何より人として、
もっと配慮が欲しかった......


結局母へは電話できないまま、私はその病院を出た

この時、すでに正午を迎えていた――

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